QUWROF.5



 最近入手した極上のオーラ。ホームページで告知したらあり得ない数の依頼メールが届いた。
 オーラの質や絶対量は本人の資質によるところが大きく、朝から晩まで真面目に修行したからと言って向上するものではない。お手軽にレベルアップできるならしたいという依頼者はわりと多いのだ。

 の能力は罠にかかった対象者からオーラを奪い取り、第三者に貸し与えることができる能力だ。残念なことに自分自身は対象外なので、奪ったオーラで強化することはできない。分不相応な力は災いを招く場合もあるので、彼女はそれでいいと思っている。

 客とのやり取りは主にホームページ経由で、ネットワーク管理は知り合いに委託している。幸い客は途切れることなく、今回のようにビックボーナス的な稼ぎもあるので、それで得た報酬で細々と、けれど楽しく生活していた。

 しかし先日、は世にも恐ろしい光景を目の当たりにした。

 彼女はオーラの引き渡し方法として、銀行の私書箱を使っている。混雑時も閑散時も避けて、細心の注意を払いつつの利用だが、今のところトラブルはない。
 依頼者には入金が確認でき次第、私書箱を開示できるパスワードを送っている。オーラの取り込み方法はいたって簡単で、オーラを収めた小瓶のふたを開けた際、一番近くにいる人間に吸収されるようになっている。その量はしっかり契約時間分だ。

 例の極上のオーラを預けた帰り道、急な雨に降られたは、一先ずシャッターの降りた店の軒下に走り込んだ。
 隣にはすでに一人、雨宿りをしている青年がいる。ちらりと目をやると、ちょっとビックリするくらいのイケメンだった。前髪から滴り落ちる滴でさえも絵になるような美青年だ。
 思わずぽうっと見惚れただが、彼が手にしている手帳に目を落とすと、急な既視感に襲われた。薄いグレイの表紙は、手帳というには固い装丁をしている。じっと見ていると、青年が何の前触れもなくそれを足元に投げつけた。

 飛び散った水しぶきがのブーツを濡らす。
 その瞬間思い出した。

 ラズベリーランドだ!!
 かなりの適当さで作ったそれは、確か相当に適当な呪いだったはずだ。それなのに噂が噂を呼んで、あのグリードアイランドと肩を並べるお宝だなどという尾ひれまでついた。その一端を担ったのはホームページのネットワーク管理者である知り合いの情報操作なのだが、念能力者の手には渡らなかったらしくオーラは期待できなかった。

 青年は腰を曲げて本を拾い上げると、泥汚れをさっと払って懐に収める。

 の第六感が告げた。あのオーラの持ち主だ。
 あの恐ろしく冷たい、それでいてさざなみ一つない湖面のようなオーラの持ち主。

 はもはや顔を上げることすらできず、ただじっと足元を見つめた。呼吸は浅く早く、脂汗がにじみ出る。震える指先でバッグの紐を握りしめていると、首筋にちりっとした痛みがはしった。

 意識を取り戻したのはしばらく経ってからだった。
 の隣で雨宿りをしていた中年の男は死んでいた。通行人が集まっていて、誰かが救急車を飲んだらしく、サイレン音が聴こえる。攻撃を受けたのだとそこでようやく気づいた。信じられない素早さだ。

 青年はすでに立ち去った後で、彼が生死は確認せずに去ったのはラッキーだった。
 即死を免れたのは、彼にわずかながらのオーラしかなかったからだ。それでも、が念能力者でなくただの一般人ならば、隣のサラリーマンと同じ運命を辿ったことだろう。

(信じられない……あんな能力者がいるなんて)

 いや、今は能力者とは言えない。一般人程度のオーラしかないのだから。それであの一撃を繰り出したのだ。とても太刀打ちできるレベルではない。
 は警察が駆けつける前に姿を消し、びしょ濡れになることもいとわず家路を急いだ。

 自宅兼工房に戻るとシャワーを浴びるよりも先にパソコンを立ち上げ、何百件と届いている貸出依頼メールに全て断りを入れる。ネットワーク管理者に連絡を入れ、その日限りでホームページは閉鎖した。もちろんメールアドレスも抹消してもらう。

 シャワーを浴びて温かいスープを口にする頃には多少落ち着いていたが、それでも意識していないと勝手に指先が震え出す。
 サイトもメールもいつか復活させればいいだけのこと。それよりも今は、あの震えあがるような恐怖を一刻も早く忘れたかった。


***


 とある麗らかな午後、アジトにはいつものように数人の団員が集まっていた。

「これなんね」

 フェイタンが瓦礫の中から拾い上げたのは、薄いグレイの表紙がついたメモ帳サイズの大きさの本。
 粗雑に扱われたのか、角は折れ曲がり表紙の半分ほどはシミで色が変わっている。

「あら……そんな所に落ちてたのね」

 ちょうど居合わせたパクノダが含みのある声で答え、なぜか笑いを押し殺す。気に障ったフェイタンは元々細い目をさらに細めてにらんだ。

「何がおかしいか」

 彼がぱらぱらとページを捲ると、最後の方にこう記してあった。

現在のポイント 1000 pt
達成までにあと 0 pt が必要です。
コメント:お疲れ様でした!!お借りしていたオーラはお返しします。またのお越しを心よりお待ちしています。



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