ジョルノは何でも知っている。
それは彼の立場上、黙っていても様々な情報が耳に入るからかもしれない。常に情報収集をしているのかもしれない。天才なのかもしれない。
私は時々試すように規則性のない質問をしてみる。
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ジョルノは羽ペンを握る手を休めて、またはキーボードを打つ手をとめて、飲みかけのエスプレッソをデスクに置いて、または重そうなまぶたを持ち上げて、私に答えをくれる。少し困ったような慈愛に満ちたような絶妙な表情をつけて。
たぶん彼の二つの眼にはこの世の全てが映っているんだろう。
森羅万象、この宇宙に存在するありとあらゆる事物や現象。なんて考えているとジョルノが言った。
「あなたはぼくを買かぶりすぎですよ、」
「そうかな」
「ええ、だって答えは全部ウソですから」
ジョルノはペンを止め、何やら書き込んでいた紙を丁寧に折りたたむ。それが何の書類なのかは私にはわからない。
「あなたが本当に欲しい答えなら、ぼくはなんとしても答えます」
「うん?」
「そうじゃあないから、ウソでいいんです」
その証拠に、あなたは訊きっぱなしで答えには興味を示さないじゃあないですか、と言ってジョルノが微笑する。
なんて綺麗に笑うんだろうか、この人は。
ジョルノは彼の体格にはやや大きすぎる回転チェアに深く掛け直し、両腕を広げる。私は素直に歩み寄った。
彼の膝にちょこんと座り、顔を上げると頭を二度ほど撫でられる。
「が今本当に知りたいことをあてましょうか?」
ジョルノの腕が腰にまわり、落ちないよう私を支えてくれる。彼は柱時計に目をやった。
現在時刻は午前0時、下りたブラインドの隙間から夜が滲んでいる。
「あと30分いい子にしてくれたら今日の仕事は片付きます。どうです?他にまだ知りたいことはありますか?」
いつもの余裕綽々の顔でささやいてくる。
私が少しだけ腹をたてて、数秒睨んで、結局黙ったまま首を振ることをジョルノは知っている。
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