懲りない私と身勝手な兄貴



「兄貴!私、兄貴の事が好きです!」
「おー、は男見る目はあるじゃあねーか。いい子は好きだぜ。考えといてやる。」
「あ、ありがとうございます!!」


あの時の喜びを私は忘れないと同時に、崖から落とされた様な絶望感を味わう事になるのだ。




「ペッシ知ってる!?兄貴はさ、あの約束を忘れて、すぐに他の女と付き合ったんだよ!?しかもあれから2年経っちゃったし!!」
「ははっ、兄貴らしーや。」
「信じられない……バカ、アホ、女の敵!!……でも好きぃ。」
「はいはい。ま、兄貴はかっこいーもんなぁ。見た目も中身も。」


私は正面に座るペッシへと愚痴を溢しながらワインを飲んでは、テーブルに力無く肘を着いて口付けたままのグラスを噛んだ。
よく私の愚痴を聞いてくれるペッシも兄貴の弟分で、他のメンバーは同意してくれないけど私の良き理解者。本当にギャングとは思えない程いい子。


「ギャングじゃ無かったら、好きになってもらえたのかな?」
「でもよ、ギャングじゃあなかったら、こんなに兄貴の傍に居られないぜ絶対!!」
「いや…うーん、そうなんだけど。でも、恋人として傍に居れる方がいいのよ私は。」


あれからどうやったら本気が伝わるか、私なりに考えてアプローチしてきたつもりだ。
お化粧も髪型も香水も服装も、ぜーんぶ兄貴好みの歴代の彼女をリサーチして変えてきた。

その度にプロシュートは褒めてはくれるものの、別れたらすぐに新しい彼女を作ってた。
一体何処から湧いてくるの?と思う程に代わる代わる女性を紹介される身にもなってほしい。
拷問かよって泣いたり怒りながら、ペッシに相談して愚痴る私も懲りないとは思う。

だって好きなんだもん!毎日の様に会ってるのに、そう簡単に諦められる訳がない。


「女心って難しいのな~。……と、兄貴~!!こっち!こっちです!」
「よお、待たせちまってすまなかったな…ペッシ、。」
「私!兄貴ならいくらでも待ちますよ!お疲れ様でした!」
「おっ、今日のリップはいい色だな…。によく似合ってるぜ。」
「あ、ありがとうございますっ。」


だと思って買ったんです!

この前「唇が綺麗な女って目がいく。特に薔薇色はキスしたくなるな。」とバールで女性を見ながら呟いていたのを聞いていた私は、任務後に駆け込みで買いに行ったのだ。


「しっかし、オメー等は仲がいいなぁ。……付き合っちまえよ。」


え…。

私はプロシュートの身体の部位の中でも、甘い言葉を紡ぐ形の綺麗な唇が好きだ。
あの上唇と下唇で優しく挟まれるタバコに嫉妬しちゃうくらい好きだ。
だが、その唇で世界一聞きたくない台詞が紡がれた。


「あ、兄貴何を言ってるんですか~!有り得ないすっよー!!」
「有り得なくないだろ。人生何が起きるか解らねぇから面白い。」
「な、なら!!私と兄貴だっていいじゃない!!」
?」
「何で解ってくれないの!?っ……、兄貴なんて嫌い!!」


私の気持ちなどお構い無しにジッポでタバコに火を付けながら、煙と同時に言葉を吐き出すプロシュートを初めて睨み付けていた。
そして顔が、身体がジリジリと熱いのに頬を転がり落ちる涙が冷たくて、気付いた時には外へと飛び出していた。

嫌い嫌い!!兄貴なんて大ッ嫌い!!

泣きながら、心の中で叫びながら、レンガ調の地面を足の裏で蹴飛ばして無我夢中で走る。
何処か、誰も居ない場所へと行きたい一心で宛もなく走る私の息は保たなくて、崩れ落ちる様に壁に手を付いて地面へ腰を下ろした。


ハッハッ…と息を切らす私は犬みたいで胸を大きく上下させて呼吸を取り込むのに、瞳からは涙が溢れて止まらない。


「も…ッ…やだ。今度こそ…はっ……終わり…。」


この熟れきった恋心とはお別れする。
いくら美味しい果実でも、誰も収穫しなければ熟れきって地面へと落ちて弾ける。それと同じだ。

フッと見上げた夜空には満月が浮かび、隠して欲しいのに嫌味みたいに私を照らしてる。
黄金に輝く月がプロシュートの綺麗な髪を連想されるから、思わず睨み付けてやった。


* ** ***


どうやって帰って来たのかも覚えてないくらい、泣いて泣いて足がクタクタに疲れて帰宅した。
シャワーを浴びて褒めてくれたリップも洗い流して、素っぴんになった私は髪もろくに乾かさないままベットへと身体を沈める。もう感情も何も無い脱け殻だ。

ピンポーンッ。

こんな夜遅くに……って、この状況で来るとすれば兄貴しか居ない…か。

家のチャイムが鳴っただけで誰だか察しが付いたが、今は特にプロシュートには会いたくない。

ドンドンドンッ-。ドカッ、ドカッ-!!

ちょっと!?もしかして蹴ってる!?

だが、あまりの騒がしい音に驚いた私は、ベットから飛び起きて人目もあるので急いで向かう。すると可哀想に、ドアは蹴り飛ばされる度に痛々しく振動していた。


「あ、兄貴…止めて下さい!近所めいわ…く…。」


ソッとチェーンを掛けた僅かなドアの隙間から顔を覗かせると、視界に入ったプロシュートの姿に言葉を失った。
誰かに平手を受けたのか、白い頬が両方とも真っ赤に熟れていた。


「女と別れてきた。」
「……ど、どうして…。」
「ああ"?……オメーの為だろーが。」
「え…。」
「だから、勝手に嫌いになるんじゃあねーよ。」


一体何が起きたのか理解出来ない私は、きっと今すごく幸せな状況なのに間抜けな顔してると思う。
だけれど、ドアの隙間から見えるプロシュートは満更じゃない笑みを浮かべて真っ赤な薔薇の花束を差し出した。


の言葉が一番キツイ…もうあんな事言うなよなぁ。……オレの女になるんだろ?」


なんて自分勝手な男なのって思ったのと同時に、こんなにも胸が熱くなって嬉しい気持ちが溢れ出しちゃうなんて……私も大概だと思う。


「2年も待ったんですからね…。」


深夜のマンション。
静かになった廊下にチェーンの外れる金属音と、甘い甘いリップ音が何度も響いた。




Giostraのすあまさまより、サイトの一周年記念に頂きました。
素敵な兄貴をありがとうございました!
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